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2014.4.12 「おけけが語る」
おけけ

【ハードボイルドシリーズ第ニ弾】怒りの脱出


おけけ 怒りの脱出

前回までのあらすじ
日々の疲れを癒しに妖怪ハイムを離れ、青梅の山にこもったおけけだった。
しかし、休息は招かれざる者によって妨げられる。薄毛メーカーの追手20人と3匹の犬が、おけけを捕らえようと山に来たのだ。
 
おけけは、戦う事を決意する。

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おけけは辺りを見回した。
手頃な石を懐に4つ拾うと、風下に回り込んだ。
 
犬は一瞬嗅ぎ分けた俺の匂いを必死で探しまわっている。
ハンター達も犬の異変に気がつき、緊張感を増している。だが、奴らはプロではない。隙だらけだ。
なんとか奴らの背後に回り込んだ。距離は200メートル。頃合いだろう。
 
俺は懐に入れた石を奴らの反対側に投げた。斥候を努めるヤツの前方、距離にして20メートルの地点に落とす。同時に毛を4本飛ばした。すぐに身を翻し、左側に向って走った。
すぐに驚きの声と犬の鳴き声が聞こえた。犬三匹と、ライフルを持った男一人が倒れるのが見えた。
毛は、約5センチ突き刺さる強さで飛ばした。毛は、肉を突き刺すと同時にカールする。死ぬ事はないが、相当痛いはずだ。暫く動けまい。
 
やはり奴らは素人だ。慌てふためいて隊列が崩れた。
俺はもう1つ石を飛ばした。今度は石が落ちるまで動かない。
ドスン。と音がしたと同時に全員がそちらに身構えた。俺は毛を5本同時に飛ばした。
 
ギャー!!!
悲鳴が山の中を響き渡る。一人が銃の引き金を引いた。散弾銃の男だ。弾は密集していた仲間に当たり、3人が倒れた。
あと11人。
 
隊員A:落ち着け!仲間を撃つんじゃない!
隊員B:ヤツはどこだ!殺してやる!
隊員A:駄目だ!生け捕りにする命令だ!

 
「生け捕り。。。これだからサラリーマンは」
俺は更に回り込み、茂みから毛を飛ばす。一本飛ばしては次の木へ移動する。
慌てふためいた男が銃を乱射している。流れ弾にだけ当たらなければ勝てる。あと5人。
そう思った時、犬が茂みから飛び出して来た。俺は身体を反転させて間一髪交わした。
 
「どうやら、急所を外したらしいな」
犬と対峙する。後ろ足からは僅かに血が出ていたが、致命傷ではないらしい。吠えない所を見ると、主人達を頼りにしていない様子が分かる。自分でしとめる気なのだ。
犬は人間程簡単に倒せない。一瞬でも油断すれば負ける。男が一人近づいて来ている。早いとこ倒さなければいけない。
 
渾身の力を込めて毛を飛ばした。犬が一瞬早かった。交わされた?
次の瞬間には、ヤツの牙は俺の腕に食い込んでいた。犬は真っすぐ首を狙いに来たのだが、なんとか腕を出して致命傷を避けた。
腕に食いついた犬を抱きかかえ、斜面を転げ落ちた。下には川がある。
川まで転げ落ちても、犬は俺の腕を放さない。
 
「腕はくれてやろう」犬の首を掴み、川へ飛び込んだ。
犬の最大の武器はこの鋭い牙だが、その武器を使ってしまうと他に武器はない。
俺の腕を噛ませたまま、川へ沈めた。犬は必死に俺の腕に食らいついていたが、暫く経つと力がフッと抜け、動かなくなった。
 
噛まれた腕からは血が滴り落ちていた。どうやら腕は動かない。傷は骨まで達しているかもしれない。暫く使い物にならなさそうだ。
 
上の方では、男達が必死になって俺を捜していた。
だが、犬のいない奴らなど恐れるに足りない。俺は4本の毛を同時に飛ばし、4人を地面に這わせた。
腕の痛みが潮のように満ち引きしていた。
 
最後の一人は完全に戦意を失っていた。
俺はヤツの背後に回り込みんだ。
 
おけけ:動くな。
隊員:はい。
おけけ:何しに来た。
隊員:おけけを捕まえに来た。
おけけ:俺は捕まらん。今度来たら、本当に殺すぞ。
隊員:お、俺はもう来ない。だが我が社は諦めないだろう。
おけけ:・・・。わかった。取り敢えずお前は山を下りて救急車を呼べ。
おけけ:・・・犬には可哀想な事をした。

 
俺は身を翻し、山を下りた。
 
俺は今日も生き延びた。
しかし、俺が行きている限り、人間達の好奇心を煽り、戦いが繰り返されるのかもしれない。
だが、どうしろと言うのだ。
俺はただ生きているだけなのだ。そして、たまに人に自分の毛をつけるぐらいの、中途半端な妖怪なのだ。
 
今回の戦闘で、勇敢な犬が一匹死んだ。そして、19人の人間と2匹の犬がケガをした。
俺が生きるという事は、こういう事なのだ。
 
この腕の痛みは、今後も忘れる事はないだろう。
そして、あの勇敢な犬の事も俺は忘れる事はない。

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